グリーン成長戦略とは?14分野の課題を解説!
日本は2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルを実現すると宣言しています。
その実現には再生エネルギーの普及、よりよい環境の整備や仕組みづくりが欠かせません。
こうした中で、日本国ではグリーン成長戦略を掲げ、各業界や企業などにグリーン化への目標やサポート内容を明示しています。
本日は、グリーン成長戦略について、解説します。
グリーン成長戦略とは?
グリーン成長戦略とは、太陽光発電やバイオ燃料などの「グリーンエネルギー」を積極的に導入・拡大することで、環境を保護しながら産業構造を変革し、ひいては社会経済を大きく成長させようとする国の政策です。
2020年10月、当時の首相(菅総理)が宣言した「2050年までにカーボンニュートラル実現」の目標に基づき、成長戦略会議や経済産業省、環境省が連携して打ち出し、同年12月25日に採択されました。
この政策では、脱炭素社会を目指して、政府が現時点で考えるエネルギー政策とこれからのエネルギー需給の見通しを2050年までのロードマップとして示されており、また、そこにはこれから成長が期待される産業(14分野)に対し高い目標が設定されています。
2050年カーボンニュートラル達成のロードマップとは
グリーン成長戦略の中には、日本が2050年までにカーボンニュートラルを達成するためのロードマップが示されています。以下の図を参照してください。
出典:2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略|経済産業省
上記の資料によると、2018年時点でのエネルギー起源のCO2排出量温室効果ガス(CO2)の排出量は10.6億トンでした。
これを2030年には、2018年比で25%減の9.3億トンまでに減らす計画で、戦略としては、太陽光パネルや電気自動車、省エネ住宅などの今ある技術を最大限活用する方針で、特に化石燃料に頼っている電力部門を脱炭素化することが大きなポイントになります。
そして2050年には、排出と吸収を合わせて温室効果ガス排出量が実質ゼロになるカーボンニュートラルを達成する計画で、戦略としては、再エネ活用などによって排出量をさらに減らすとともに、植林やDACCS(炭素直接空気回収・貯留)によって吸収量を増やす方針です。
ただし、複数のシナリオも用意されているため、状況によっては変更されるかもしれません。
グリーン成長戦略の14の重点分野とは
グリーン成長戦略では、以下14分野について、技術戦略+成長戦略が策定されています。
それぞれについて、現状の課題や今後の取組みを解説します。
①洋上風力産業
<現状の課題>
・洋上風力市場の拡大、アジア拠点誘致競争の激化
・国内に風車製造拠点が不在
・先進国である欧州と環境が異なる
<今後の取り組み>
・案件形成の加速化(海域占用ルールの整備等)
・サプライヤーの競争力強化
・アジア展開も見据えた次世代技術開発 等
②燃料アンモニア産業
<現状の課題>
・石炭火力のバーナーでは、アンモニアを燃焼すると大量のNOxが発生する
・アンモニア追加生産の必要性あり
<今後の取り組み>
・アンモニア混焼の普及
・混焼率向上・専焼化技術の開発を進める
・アンモニア調達サプライチェーンを構築する 等
③水素産業
<現状の課題>
・水素発電タービン:商用化
・FCトラック:商用化
・水素還元製鉄:技術未確立、安価な水素の調達
・水素運搬船:技術開発・実証を通じた大型化
・水電解装置:欧州が先行
<今後の取り組み>
・水素発電タービン:先行して市場を立ち上げる
・FCトラック:国内市場を立ち上げ、各国に輸出する
・水素還元製鉄:技術開発支援
・水素運搬船:商用化
・水電解装置:海外輸出し、そのあと国内導入 等
④原子力産業
<現状の課題>
・各種要素技術の開発が必要
・革新的技術の安全性や経済性を検証
・開発・運転ノウハウの蓄積と実用化スケールへの拡張が必要
<今後の取り組み>
・2020年代末の運転開始を目指す海外の実証プロジェクトと連携した日本企業の取組に対し、支援を行う
・海外の先行プロジェクトの状況を踏まえ、 海外共同プロジェクトを組成していく 等
⑤自動車・蓄電池産業
<現状の課題>
EV:低価格化、インフラ整備
燃料:合成燃料の低価格化・商用化
蓄電池:大量生産と性能向上
<今後の取り組み>
EV:電池など電動者関連技術・サプライチェーン強化
燃料:合成燃料の大規模化・技術開発支援
蓄電池:大規模化・研究開発支援、蓄電システム創造
⑥半導体・情報通信産業
<現状の課題>
・デジタル化の中核となるデータセンターの立地やグリーン化、5Gなど次世代情報通信インフラ構築
・半導体の省エネ化
<今後の取り組み>
・デジタル化の中核となるデータセンターの国内立地推進、次世代情報通信インフラの整備
・次世代パワー半導体等の研究開発、実証、設備投資を支援
⑦船舶産業
<現状の課題>
・カーボンフリーな代替燃料である水素・アンモニアを直接燃焼できる大型船向けエンジンが存在しない
・LNG燃料船の燃料タンクのスペース改善
<今後の取り組み>
・大型船向けの技術開発・実用化
・スペース効率の高い革新的技術の開発 等
⑧物流・人流・土木インフラ産業
<現状の課題>
・水素等次世代エネルギー輸送手段や受入体制が確立されていない
・スマート交通:利便性の面でさらに改善すべき課題が多数
・物流施設の低炭素化:庫内作業の省人化に伴う照明等エネルギー消費量の削減や、冷凍冷蔵倉庫における省エネ型自然冷媒機器の導入によるエネルギー消費量の削減及び脱フロンが不可欠
<今後の取り組み>
・港湾におけるカーボンニュートラルポートの形成
・日常生活における車の使い方をはじめとした国民の行動変容を促す
・物流施設における省人化機器及び再生可能エネルギー設備の導入や、冷凍冷蔵倉庫における省エネ型自然冷媒機器への転換に係る取組を推進 等
⑨食料・農林水産業
<現状の課題>
・農山漁村の地域資源を活用して再エネ生産・利活用を行い、持続的なエネルギーマネジメントシステムの構築が求められている。
・ブルーカーボン(海洋生態系による炭素貯留)について、海洋生態系藻場タイプ別 の炭素吸収量評価手法、藻場・干潟の造成・再生・保全技術を開発中
<今後の取り組み>
・農林水産業における化石燃料起源のCO2ゼロエミッションを推進
・ゼロエミッション困難な排出源をカバーするネガティブエミッションとして、 農地、森林・木材、海洋における炭素の長期・大量貯蔵を実現 等
⑩航空機産業
<現状の課題>
・装備品・推進系電動化には技術的課題有
・世界的に開発がスタートするも、技術開発要素は多数
<今後の取り組み>
・ハイブリッド電動化・全電動化への対応
・水素への燃料転換のコアとなる技術を確立 等
⑪カーボンリサイクル産業
<現状の課題>
・CO2を吸収して造るコンクリート:実用化済だが、市場が限定的
・藻類の培養によるバイオ燃料:高コスト克服のための大規模化
・人工光合成によるプラスチック原料:現状の光触媒では太陽光の変換効率が限定的で、生産性が低いため、コスト高
・排気中CO2の分離回収:市場獲得に向けた分離回収技術の低コスト化が課題
<今後の取り組み>
・CO2を吸収して造るコンクリート:公共調達を活用し販路拡大・コスト低減
・藻類の培養によるバイオ燃料:大規模実証を通じたコスト低減、供給拡大
・人工光合成によるプラスチック原料:変換効率の高い光触媒の開発を加速、実用化 等
・排気中CO2の分離回収:低コスト化を通じた需要拡大
⑫住宅・建築物産業/次世代型太陽光産業
<現状の課題>
エネルギーマネジメント:社会実装の加速化
カーボンマイナス住宅(LCCM)及びゼロエネルギー住宅・建築物(ZEH・ZEB)推進:更なる消費者への訴求が課題
炭素の固定に貢献する木造建築物:非住宅・中高層建築物分野における木造化が課題
<今後の取り組み>
エネルギーマネジメント:社会実装に向けた規制・制度改革
カーボンマイナス住宅(LCCM)及びゼロエネルギー住宅・建築物(ZEH・ZEB)推進:新たなZEH・ZEBの創出及び規制活用
炭素の固定に貢献する木造建築物:木造建築物の普及拡大 等
⑬資源循環関連産業
<現状の課題>
・循環経済への移行も進めつつ、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする
<今後の取り組み>
技術の高度化、設備の整備、低コスト化
・リデュース:関係者間で使用済み製品・素材に関する必要な情報を共有するためのシステムの実証
・リサイクル:更なる再生利用拡大に向け、リサイクル性の高い高機能素材やリサイクル技術の開発・高度化、回収ルートの最適化、設備容量の 拡大に加え、再生利用の市場拡大を図る
・熱利用:廃棄物焼却施設の運転効率の向上に加え、廃棄物焼却施設の立地条件が熱の活用度合いに大きく影響するため、遠方の利用施設に熱供給を行うための蓄熱や輸送技術の向上並びにコスト低減を促進する 等
⑭ライフスタイル関連産業
<現状の課題>
・ZEH・ZEB、需要側の機器(家電、給湯等)、 地域の再生可能エネルギー、EV/FCV等を組み合わせた柔軟性確保やセクターカップリングの実証段階であり、実用化していない
・ナッジ等の基礎的技術は確立。多様な活用方策の実証段階であり実用化していない
<今後の取り組み>
普及のためのコスト低減、実証にとどまらないビジネスの確立
・ZEH・ZEB、需要側機器、地域の再生可能エネルギー、EV/FCV等を組合せ、最適化するための多種多様な機器等を自律制御や遠隔制御する手法の確立や市場形成。需要近接型再エネ電気・熱の技術の実証・社会実装、普及を図る
・行動科学やAIに基づいて一人ひとりに合ったエコで快適なライフスタイルを提案して暮らしをサポートするより高度なシステム技術の開発・実装
このような14分野の課題と今後の取り組みについて、グリーン成長戦略では「実行計画」を具体的に定められています。
グリーン成長戦略に伴う政策とは
最後にグリーン成長戦略に伴う政策をご紹介します。具体的な政策は、以下の表のとおりです。
大項目 | 内容 |
予算 | グリーンイノベーション基金 (NEDOに創設され、政府の予算総額2兆円) |
税制 | カーボンニュートラルに向けた投資促進税制
① 大きな脱炭素化効果を持つ製品の生産設備の導入 繰越欠損金の控除上限を引き上げる特例 研究開発税制の拡充 |
金融 | グリーン投資促進ファンドの創設
ゼロエミ・チャレンジの創設 |
規制改革・標準化 | (i)新技術の需要を創出するような規制の強化
(ii)新技術を想定していない不合理な規制を緩和 (iii)新技術を世界で活用しやすくするよう国際標準化 カーボンプライシングへ躊躇なく取り組む |
国際連携 | 日米・日EU間の連携強化
東京ビヨンド・ゼロ・ウィークを通じた国際的な議論や協力のリード |
以上のとおりですが、上記、税制項目の内容に記載されている①②について対象設備の例を具体的に申し上げますと、
①大きな脱炭素化効果を持つ製品
・省電力性能に優れたパワー半導体
・電気自動車等向けのリチウムイオン蓄電池
・燃料電池
・洋上風力発電設備の主要専用部品
② 生産工程等の脱炭素化と付加価値向上を両立する設備
・最新鋭の熱ボイラー設備
(事業所等の生産性向上とCO2の排出削減を図る「炭素生産性」という指標が相当程度向上する設備)
があります。